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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)956号 判決 1975年2月28日

原告

三上幸子

外二五名

原告ら訴訟代理人弁護士

沢藤統一郎

外一名

被告

エール・フランス・コンパニー・ナショナル・

デ・トランスポール・ザエリアン

日本における代表者

ピエール・ストツケル

右訴訟代理人弁護士

森俊夫外一名

主文

一  原告らが被告に対し、採用地を東京、配属先を被告日本支社とする客室乗務員たる労働契約上の地位を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張

(請求原因)

一、被告は航空運輸業を目的とし、フランス国法に準拠して設立された、肩書地に本社を置く外国会社である。

原告らは、別表雇用年月日欄記載の日に、採用地を東京、配属先を被告日本支社(採用地、配属先を包括して、以下「ベース」といい、右のとおりのベースを、以下「東京ベース」という。)とする客室乗務員(但し、客室乗務員にはスチュワーデス、スチュワード、パーサーが含まれるが、原告らはいずれもスチュワーデスである。)として、雇用契約の成立及び効力は日本国法に準拠するとの約で被告に雇用された。なお、原告らは被告日本支社の日本人従業員により組織されているエール・フランス日本人従業員労働組合(以下「組合」という。)の組合員である。<以下略>

理由

一請求原因第一項の事実は、当事者間に争いない。

二解雇の意思表示

被告が昭和四八年一〇月三一日ころ原告らに対し、同年一二月三一日限り原告らを解雇する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いない。

三解雇理由

(一)  客室乗務員の雇用状況

当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる<証拠判断省略>。

1  被告は、昭和四八年当時、フランス人、日本人、ドイツ人、ブラジル人を合わせて四、〇〇〇名位の客室乗務員を雇用していたが、そのうちフランス人以外の外国人客室乗務員(但し、すべてスチュワーデスである。)は、日本人四二名を含めて六四名であつた。そして、被告は、今後における営業活動の発展に対処するため、昭和四九年以降数年の間に外国人客室乗務員を五〇〇名なしい八〇〇名程度までに増員することを見込み、同年中に日本人スチュワーデスを一〇〇名位まで増員するほか、アラブ人及び中国人のスチュワーデスを新たに採用する予定であつた。

2  フランス人客室乗務員は採用地をパリー、配属先をパリー地区すなわち本社とするパリーベースで本社採用され、被告との雇用契約関係についてはフランス国法の適用を受けていた。また、被告にはフランス国法に準拠した、海外ベースの客室乗務員等を除く客室乗務員を対象とする客室乗務員規則(就業規則)が置かれていたので、フランス人客室乗務員にはこの就業規則が適用されていた。

被告は航空運輸企業の団体であるCTAFに加入しており、他方、フランスには航空機の客室乗務員によつて組織された職業別労働組合であるSNPNCがあるところ、フランス人客室乗務員の賃金、勤務時間、休憩時間、休日、休暇等の労働条件は、フランス国法や就業規則の規定によるほか、被告ないしCTAFとSNPNCとの交渉により決定され、フランス人客室乗務員はその間に締結された労働協約の適用を受けていた(フランス国労働法典第一巻第三一e条第一項は、「労働協約に自ら署名したすべての者または署名団体の構成員であるすべての者は、労働協約義務を守らなければならず、労働協約は同様にこれに加入する団体及び適時右の団体の構成員となるすべての者を拘束する」旨を、また、同条第二項は、「使用者が労働協約の条項により拘束されているときは、これらの条項は、この使用者と締結される労働契約に適用される」旨定めている。したがつて被告ないしCTAFとSNPNCとの間に労働協約が締結れさると、この労働協約は、SNPNCの組合員であると否とにかかわらず、被告に雇用されているフランス人客室乗務員に適用されることになる。)。

フランス人客室乗務員の採用、解雇、勤務評価、運航計画の立案、決定、勤務スケジュールの作成、チーム編成等客室乗務員に対する管理、監督は本社運航本部が担当しており、この業務遂行のため同本部にはコンピューター設備を備えた客室乗務員センターが置かれている。そして、フランス人客室乗務員は同本部の管理、監督のもとに、同本部の立案、決定した運航計画、勤務スケジュール、チーム編成等に従つて、正規の客室乗務員としてその本来の業務に従事していた。

3  外国人スチュワーデスは、採用地を日本人の場合は東京、ドイツ人の場合はフランクフルト、ブラジル人の場合はリオ・デ・ジャネイロ、配属先を右各採用地所在の海外支社とする海外ベースで現地採用され、被告との雇用契約関係については、採用地所在国法の適用を受けていた(採用地が右のとおりであれば、特約のない限り雇用契約の準拠法は採用地所在国法となるからである。)。また、被告には採用地所在国法に準拠した各外国人スチュワーデスを対象とする就業規則が各配属先海外支社ごとに置かれていたので、外国人スチュワーデスにはこの就業規則が適用されていたが、この就業規則は、その相互間においても、フランス人客室乗務員に適用されていたそれとの間においても、その内容を異にするものであつた。

外国人スチュワーデスの労働条件についてみると、採用地所在国法や就業規則の規定によるほか、各配属先海外支社単位に、各外国人スチュワーデスないしその所属労働組合と各配属先海外支社との交渉によりそれぞれ独自に決定されてきた。したがつて、外国人スチュワーデス所属労働組合との労働協約の内容は、その相互間においても、SNPNCとのそれとの間においても、異なつたものになつていた。

外国人スチュワーデスに対する管理、監督は、その配属先が海外支社であるところから、形式的には海外支社がその任にあたるものとされていたものの、実際は、採用、解雇、勤務評価、運航計画の立案、決定等ほとんどの面にわたつて本社運航本部がその衝にあたつていた。海外支社は、単に同本部の立案、決定した運航計画に合わせて外国人スチュワーデスの勤務スケジュールを作成する程度にとどまり、外国人スチュワーデスも同本部の管理、監督のもとに、配属先海外支社が右のような方法で作成した勤務スケジュールに従つて航空機に乗務していた。

もつとも、被告は、昭和二七年にドイツ人、昭和三〇年に日本人三名、昭和四二年にブラジル人をそれぞれ初めてスチュワーデスとして雇用したのであるが、被告が外国人スチュワーデスを雇用し始めた当初においては、日本人ら外国人スチュワーデスは、客室乗務員の正規の構成人員に組み入れられず、フランス人スチュワーデスを補助して日本人ら外国人旅客のサービスにあたつていたにとどまり、昭和三三年ころに至り初めて客室乗務員の正規の構成人員に組み入れられ、その本来の業務に従事するようになつた。

SNPNCは当初外国人客室乗務員の採用に反対の態度を示していた。そのため被告は、やむなく外国人スチュワーデスを海外ベースで現地採用し、配属先海外支社においてその管理、監督にあたるという形式をとりながら、実際は本社運航本部の管理、監督下に置くという変則的な取扱いをし、昭和三三年ころまでは前述したように客室乗務員の構成人員に組み入れることなくフランス人スチュワーデスの補助的業務に従事させてきたのである。

(二)  客室乗務員のベースの統一

被告は昭和四九年一月一日をもつて外国人客室乗務員のベースをフランス人客室乗務員のそれ、すなわちパリーベースに統一することにした。そして、被告は原告らを含む日本人スチュワーデスに対しては、昭和四八年一〇月三一日ころ、同年一二月三一日限り解雇する旨の意思表示をするとともに、承諾期限を同年一一月二〇日として、パリーベースでの再雇用の申込みをした。しかし、原告らはこの承諾期限までにその承諾をしなかつた。以上の事実は当事者間に争いない。

1  労働条件の統一の必要

外国人スチュワーデスの労働条件は、前認定のとおり、ベース、準拠法、就業規則、その他の労働条件決定方法等の相違から、その相互間においてもまたフランス人客室乗務員のそれとの間においても異なつていた。したがつて、少なくとも外国人スチュワーデスが正規の客室乗務員としてその本来の業務に従事している限り、このような労働条件の不統一は、企業経営の面からみて決して好ましいものではなく、その統一が望まれることはいうまでもない。しかも外国人スチュワーデスは、すでに昭和三三年ころから正規の客室乗務員の構成人員に組み入れられてその本来の業務に従事していたのである。加えて、後記認定のとおり、SNPNCも同年ころ以降、外国人スチュワーデスの海外ベースでの雇用やその労働条件について反対する立場から、外国人スチュワーデスの労働条件をフランス人客室乗務員のそれと同一にすべきこと、そのために外国人スチュワーデスのベースをフランスに移すべきことを要求するようになつていた。

したがつて、客室乗務員の労働条件の統一という問題は、被告においてすでに昭和三三年ころから生じていた問題であつて、昭和四八年になつてこと新しく起こつた問題ではない。のみならず、仮に客室乗務員の労働条件を統一するためには外国人スチュワーデスのベースをパリーにする必要があるとしても、被告がもともと外国人スチュワーデスを海外ベースで現地採用するようになつたのは、ひつきよう、SNPNCが当初外国人客室乗務員の採用に反対の態度をとつていたことに起因するものである以上、前認定のようにSNPNCがパリー移籍の要求を始めた昭和三三年ころ以降においては、被告が外国人スチュワーデスのパリー移籍を実施することにつき、SNPNCとの関係において特に重大な支障はなかつたはずである。したがつて、外国人スチュワーデスの採用にあたり、パリー移籍に関しSNPNCと合意ができた場合にはベースをパリーに変更する旨の特約をする等して、将来実施すべきパリー移籍に備えて必要な措置をとつておきさえすれば、(このことが被告にとつて難きを強いるものでないことは、以上からして明らかである。)同年ころ以降に採用した外国人スチュワーデスについては何の支障もなくパリー移籍を実現できたということができる。それにもかかわらず、被告は右のような措置をすらとることなく漫然と外国人スチュワーデスの海外ベースでの雇用を継続してきたのである。原告らは昭和三九年六月四日から昭和四七年一一月二〇日までの間に被告に雇用されたものであり、しかもそのうち一八名は昭和四七年に雇用されたのである。そうだとすれば、被告が主張するように、客室乗務員の労働条件の統一とそのために外国人スチュワーデスのパリー移籍が必要であるとしても、これをもつて原告らに対する解雇の理由とするには、その理由は薄弱といわなければならない。

2  運航技術上の必要

被告は、客室乗務員の労働条件が異なるため、客室乗務員の勤務スケジュールの作成や航空機ごとのチーム編成が複雑、困難になつてきているので、客室乗務員の労働条件が異なつたままの状態において昭和四九年以降外国人客室乗務員を増員するとすれば、客室乗務員の勤務スケジュールの作成や航空機ごとのチーム編成は不可能になる、と主張する。

しかし、右主張のような運航技術上の重大な支障の存在を裏付ける具体的事実を認めるに足りる十分な証拠はない。かえつて、<証拠>によれば、被告は原告らのうちで最も勤続年数の長い原告三上、同高橋が雇用された昭和三九年から昭和四七年までの間、常時フランス人客室乗務員(但し、臨時採用者を除く。)の三、四パーセント程度にあたる外国人スチュワーデスを雇用しており、昭和四八年にはその割合は二パーセント程度にまで落ちていること、被告は昭和四二年から昭和四八年まで毎年約六〇名ないし九〇名の外国人スチュワーデスを雇用してきたこと、ノース・ウェスト航空(但し、一部はシアトルベースである。)、英国航空、アリタリア・イタリア航空、スカンジナビア航空等の外国航空会社においては、昭和四八年一一月時点及びそれ以降においても日本人スチュワーデスにつき東京ベース制を採用していることが認められ、この事実からみても、被告の右主張は首肯し難い。

また、被告は、外国人スチュワーデスの労働条件を、海外ベースのまま、CTAFとSNPNC間で昭和四七年二月一一日付で締結された労働協約の定めるところと同一にすることは、運航技術上不可能であると主張する。

しかし、右主張は結局のところ客室乗務員の労働条件の統一の必要から生ずる第二次的な理由に過ぎない。そうだとすれば、労働条件の統一の必要についてすでに判示したところと同断である。

3  労働組合の要求

当事者間に争いない事実と<証拠>によれば、次の事実が認められる。<証拠判断省略>

(1) SNPNCが当初外国人客室乗務員の採用に反対の態度をとり、このため、被告は、外国人スチュワーデスを海外ベースで雇用するようになつた経緯は、前述したとおりである。SNPNCは、右の事態に対して、外国人スチュワーデスが客室乗務員の正規構成人員外にあつて、フランス人スチュワーデスの補助的業務についていた間はともかくとして、客室乗務員の正規の構成人員に組み入られるに至つた昭和三三年ころ以降、被告が外国人スチュワーデスを海外ベースで低い労働条件により雇用しているとして、外国人スチュワーデスの海外ベースでの雇用やその労働条件について反対の態度をとり、外国人スチュワーデスの労働条件をフランス人客室乗務員のそれと同一にすべきこと、そのため外国人スチュワーデスのベースをフランスに移すべきことを要求し続けてきた。その理由は、外国人スチュワーデスの労働条件が低いことは、フランス人客室乗務員の地位の向上に影響なしとしないし、また、SNPNCがストライキを行なつている際、外国人スチュワーデスが勤務につくことにより結果としてスト破りの役割を果たしていることはとうてい容認できない、という点にあつた。そして、SNPNCは昭和四八年になると、ストライキ等の争議行為に訴えても右要求の実現をはかるとの強い態度を示すに至つた。

被告は、従来右要求を拒否しきたのであるが、外国人客室乗務員の増員が予定されている昭和四八年に至り、かねてから懸案の外国人客室乗務員の採用について同意を得るべく、SNPNCと交渉を重ね、同年五月ころには外国人スチュワーデスのパリー移籍について原則的に合意し、同年八月二日SNPNCとの間に、外国人客室乗務員の採用に関し、外国人客室乗務員数は総客室務員数(但し、フランス国籍またはEEC加盟国の国籍を有する等所定の資格を有する客室乗務員の総数)の一〇パーセントを越えてはならないこと、として外国人客室乗務員の採用をSNPNCにも承認させることの引き換えとして、外国人客室乗務員のベースを、SNPNCの要求を容れてパリーとすること等を内容とする、昭和四九年一月一日発効の労働協約を締結した。もつとも、右労働協約の締結にあたつて、被告はSNPNCに対し、右労働協約を日本人スチュワーデスに適用するか否かについての被告の決定は、組合との交渉を経た後にする旨の書面を差し入れていたものの、被告は日本人スチュワーデスのパリー移籍について組合の同意を得られないまま、昭和四八年一〇月一日に日本人スチュワーデスのパリー移籍を最終的に決定し、同月三日付書面によりその旨をSNPNCに通知した。

(2) 外国人スチュワーデスないしその所属労働組合も、昭和四八年ころまでには、外国人スチュワーデスの労働条件をフランス人客室乗務員のそれと同一にすべき旨要求するに至り、組合も昭和四六年の春斗以来、日本人スチュワーデスに対してSNPNCとの労働協約の全面的適用を要求し、昭和四八年の春斗に際しては、日本人スチュワーデスの労働条件をCTAFとSNPNC間で昭和四七年二月一一日付で締結された労働協約の定めるところと同一にすべき旨を要求していた。昭和四八年六月一四日と一五日に被告日本支社において組合の春斗要求について交渉が持たれたところ、被告はその際初めて組合に対し、外国人スチュワーデスのパリー移籍の方針を明らかにするとともに、その経緯について、外国人スチュワーデスのパリー移籍を要求していたSNPNCとの交渉が妥結し、これについて原則的合意ができた旨を説明した。また、組合との右交渉の場には被告の要請によりSNPNCの書記長が同席していたところ、被告は、その理由について、外国人スチュワーデスのパリー移籍の要求がSNPNCから出されたためである旨説明した。次いで、被告は同年八月二八日から三〇日、同年九月一二日から一四日及び同年一〇月二五日に日本人スチュワーデスのパリー移籍について組合と交渉を重ねた際、被告が外国人スチュワーデスのパリー移籍を決定したのは、SNPNCと同年八月二日に締結した前記労働協約に基づくものである旨説明したものの、右決定の理由として、外国人スチュワーデスないしその所属労働組合から右のような労働条件に関する要求がなされているということを特に挙げるようなことはなかつた。

右認定事実によれば、被告が外国人スチュワーデスのパリー移籍を昭和四八年一〇月一日に決定したのは、外国人スチュワーデスないしその所属労働組合からの右認定のような要求もさることながら、その主な理由は、SNPNCからの要求と右労働協約の締結に基づくものであることが明らかである。そうだとすれば、このことにより外国人スチュワーデスのパリー移籍が必要であるとしても、これを原告らに対する解雇理由とすることが合理性に乏しいこと、労働条件の統一の必要について判示したところと同様である。また、組合の前認定のような要求にしても、これが東京ベースを前提としての統一要求に終始していることは、弁論の全趣旨から明らかである。加えて、原告らがパリー移籍になる場合フランス国法の適用を受けることは当事者間に争いがないところ、その結果少なくとも次のような不利益を被ることは明らかであり、そうだとすれば、本件解雇理由が合理性を欠くことはなおさらである。すなわち、

(1) 労働者の雇用の安定の要請から立法されたものといわれる「期間の定めのない労働契約の解約告知に関し労働法典を改正する一九七三年七月一三日の法律」による改正後のフランス国労働法典第一巻第二四n条、第二四p条。第二四r条等によれば、解雇に関する法律関係は次のとおりとなる。すなわち、使用者が相当な理由なく労働者を解雇したときは(但し、経済的理由により正当化される集団解雇の場合は除く。)、その解雇は権利濫用として違法となる。しかし、これによつて右解雇が当然無効となり、従前の雇用契約が存続することになるというわけではない。この場合には、(イ)使用者が通常一一人以上の労働者を使用しており、労働者がこの使用者のもとに勤務して二年以上になるときは、裁判所は労働者を復職させることを提案できるにとどまり、当事者の一方がこれを拒否したときは、使用者に対し六か月分の賃金に相当する額以上の手当の支払いを命じ得るに過ぎない。また、(ロ)使用者または労働者が右(イ)の要件を備えていない場合には、労働者は使用者に対し、違法な解雇により被つた損害を基礎として計算されたところの手当を請求できるだけである。他方、日本国法のもとにおいては、右の法律関係は次のようになる。すなわち、解雇が権利濫用として違法となるときは、その解雇は無効となり、したがつて、使用者と労働者間の従前の雇用契約は解雇により終了することなく存続し、労働者は賃金請求権を失わない。これは学説、判例上確立した法理であるということができる。そうすると、雇用契約関係についてフランス国法の適用を受ける場合は、日本国法の適用を受ける場合に比べて雇用契約上の安定を欠くことになる。したがつて、他の点における利益、不利益はともかくとして、この点だけを把えてみても著しい不利益を受けることは免れない。

なお、以上に関連して証人鈴木儀一は、原告らはパリー移籍になれば正規社員の身分を取得するところ、被告においては、正規社員の解雇は特別の委員会の審議を経たうえでなされるから、原告らの雇用上の地位は東京ベースの場合よりも格段に保障される旨供述している。しかし、被告における正規社員の解雇手続が右供述のとおりであるとしても、ひつきよう労使関係における一方当事者である使用者の内部における手続に過ぎず、これが労働者の身分の安定に必らずしも効果のないことは、本件解雇問題が端的に物語つているといえよう。

(2) 原告らはパリー移籍になれば、フランス国労働法典第一巻第三一e条第一、第二項により、SNPNCに加入すると否とにかかわらず被告ないしCTAFとSNPNCとの労働協約の適用を受けることになる。そうすると、組合はもちろん組合員である原告ら各人も組合活動上それだけ制約を受けることになり、日本人スチュワーデスに関する問題等につき主体的に組合活動を展開するのが困難とならざるを得ない。労働者にとつて自主的に労働組合を選択し、これに加入することにより労働組合活動をすることは、かけがえのないものであるから、この不利益も原告らにとつて極めて重大である。

(三)  解雇の効力

以上のとおりであつて、被告主張の解雇理由は根拠がないかあるいは合理性に著しく欠けるから、原告らに対する本件解雇は権利濫用としていずれも無効といわざるを得ない。

四結論

原告らに対する本件解雇は無効であるから、原告らは依然として東京ベース、すなわち採用地を東京、配属先を被告日本支社とする客室乗務員たる労働契約上の地位を有する。それにもかかわらず、被告はこれを争つているから、原告らは右のとおりの労働契約上の地位を有することの確認を求める利益がある。

よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(宮崎啓一 安達敬 飯塚勝)

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